青の洞窟

 

日本には「日光を見ずして結構と言うな」という言葉ありますが、イタリアには、「ナポリを見てから死ね」という有名な言葉があります。

 

 南イタリア最大の都市であるナポリは、石造りの家々が連なり、トマトやオレンジそしてレモンの畑が続く町です。「世界で最も美しい海岸線」と讃えられるナポリ湾には紺碧の海が広がっています。ナポリの名の由来は、かつてこの地を支配したギリシア人が、新しい都市という意味の「ネアポリス」と名付けたことに始まります。

 

この町を歩いて感じるのは、人々の快活さです。本当に人生を楽しんで生きているということがよくわかります。

 

そのナポリで最も楽しめるのは食べ物です。イタリアにパスタは1,000種類もあるそうですが、ナポリでパスタといえばスパゲッティで、そのスパゲッティはこのナポリからイタリア全土に広がって行ったそうです。ピザもまたナポリで生まれたのですが、ナポリではやや厚手の生地を使ったシンプルなピザが多く、特に有名なのはマルゲリータです。これはナポリのピザ職人が王妃マルゲリータに捧げたものだそうです。真っ赤なトマトと白いモッツァレッラ・チーズ、緑のバジルはイタリア国旗の色と一致していますね。

 

 さて、ナポリ湾の南に半島が突き出ていて、ここにソレントという町があります。列車で行くとナポリからは1時間位です。「帰れソレントへ」という曲を思い浮かべる人も多いかと思いますが、歌詞の内容は「出稼ぎに行った息子を貧しい漁村で母が待ちつづけている」というちょっと悲しいものです。

 

現在のソレントとは、高級観光地となっています。丘の上に広がる町並みはナポリとはがらりと雰囲気が変わって、洗練された新鮮な美しさにつつまれています。かわいらしい店や、きれいなホテルやレストランが並んでいて、特に夕刻の景色が素晴らしいところです。 

 

 さらにソレントからフェリーで30分ほど海を渡ったところに、カプリ島があります。古代ローマ時代からアウグゥストゥス帝など歴代の皇帝が別荘地としてきたことで有名です。紺碧のナポリ湾に浮かび、南国の緑に包まれた美しい小島です。狭い斜面にはオレンジとレモンとブドウの畑があり、白壁の家々がとても特徴的です。

 

 日本のテレビのコマーシャルにもなった有名な「青の洞窟」は、このカプリ島の西北に位置します。

 

マリーナ・グランデという港から船に乗っていくと、海から空に向かって一直線にそびえ立っている断崖絶壁の島の姿がよく分かります。次々に現れる岩礁や岩島群、大小の洞窟などを眺めて20分程行くと、「青の洞窟」の入口に到着します。ここで、6人乗りくらいの小さな細長い手こぎボートに乗り換えることになります。

 

ここで一番驚いたのは、洞窟の入口が本当に小さいことでした。もし海面下の水中を潜っていくのであれば、当然十分な深さがあり問題ないのでしょうが、海に浮かんだボートで洞窟へ入るとなると、海面の上のわずかな隙間を通り抜けなければなりません。しかも波が高くなった時には、その入口が完全にふさがれてしまいそうです。

 

ここまで来れば、船頭さんの腕を信じるしかありません。波が低くなり、入口が大きく開いたタイミングを見計らい、船頭さんの「仰向けに寝て!」という指示で、ボートに乗った全員が船縁ギリギリくらいまで仰け反って体全体を隠したその瞬間、ボートは一気に洞窟の中へ滑り込んで行きました。

 やっとの思いで入った洞窟の中は、不思議なブルーの光で満ちた神秘の世界でした。洞窟内には直接日光が差し込まず、海面下の開口部から水を通して光が入るため、このような幻想的で独特のブルーの色彩が生まれるのだそうです。洞窟の中はそれほど広いわけではありませんが、感動して水に飛び込んで泳ぎだす人もいました。エメラルド色の水と屈折した光が織りなす幻想的な青の世界、それが「青の洞窟」でした。