イギリスのコーチ

 

イギリスで日本人が訪れることが一番多いのはロンドンでしょう。ロンドンももちろん素敵な街ですが、そこからいろいろな地方へ少し足を伸ばしてみると、ロンドンとはまったく違ったすばらしい魅力を持つイギリスと出会うことできます。

 

イギリス内を旅する手段は、飛行機、レンタカー、鉄道、バスなどいろいろとありますが、やはり私が一番好きなのはバスでの旅です。

 

 

 

イギリスでは長距離バスを「コーチ」と呼びます。これはその昔、大型4輪乗合馬車をそう呼んでいたことから来ています。コーチは「コーチステーション」が発着地となっています。鉄道の場合は、線路を敷くのには多くの制限があり、そのため鉄道駅は街のはずれにあることが多いものですが、バス停の設置や移動はわりと自由で、便利な場所につくることができるため、コーチステーションはたいてい街の中心にあります。街へのアクセスということでは、コーチは他のどの交通手段よりも便利なのです。

 

 

 

ただ、コーチステーションを利用するのは、慣れるまでは少し苦労するかもしれません。というのは、コーチステーションはとても混雑していることが多く、また同じバス停からたくさんの行き先が違うバスが発車していくため、自分の乗るコーチと乗り場とを探すことは簡単ではないからです。

 

これが、鉄道の駅なら、掲示板や各ホームに列車の行き先や発車時刻がしっかり表示されているので、自分で探し出すのも難しくないでしょう。

 

したがって、コーチステーションでは、いろいろな人にバス停の場所や、コーチがもう出たかどうかなどを尋ねないといけません。しかし、これにより自然にいろいろな人とのコミュニケーションが増えるわけで、私はこれもまた旅の大きな楽しみの一つだと思います。旅の中で親切な人に出会った時の喜びはまた格別です。

 

 

 

さて、コーチを利用するには、あらかじめ予約をしておくことが必要ですが、座席は自由なことが多いです。私はコーチの2階席の一番前に座ることが好きで、バス停ではいつも早めに列に並んでこの席を目指したものです。運転席のちょうど上にあたるのですが、眺めは最高です。

 

レンタカーでの旅の場合も風景を自由に楽しむことができるのですが、自分が運転しなければならないとなると、景色をゆっくり眺めるのには不向きです。また、何といっても、コーチの2階席からは目の位置がとても高くて遠くまで見渡すことができるので、普通の乗用車からの景色とはずいぶん違うものです。

 

 

 

そして、路線や所要時間にもよりますが、車内で飲み物や軽食の販売を行っていることもあります。バスが出発してからしばらくすると、ちょうど飛行機の機内のスチュワーデスさんのように、女性の車掌さんが注文を聞きに席を回ってきます。お勧めは、やはり紅茶ですね。おいしいイギリスの紅茶を飲みながら、ゆっくりと景色を眺めて旅行をするのは、この上ない楽しみといえます。

 

 

 

コーチは出発してしばらくは街の中を走ります。が、ふと気づくといつの間にか郊外へ出ていて、周りは牧草地で、のんびりと丘の上で牛や羊が草を食んでいる姿が目につくようになります。そして、しばらくこの風景が続きます。コーチを使うと、時間は確かに鉄道などよりもずっとかかるのですが、ゆったりと腰を下ろして、イギリスの田園風景を楽しむには最適です。そして、また景色が変わったなと思う時には、別の街へ入ってきているのですが、そこでは生活している人々の様子を間近で見ることができます。コーチに乗って旅行をしていると、ゆったりと人としてのペースで自然風景や人々の生活を肌で感じることができるのです。これだと何時間乗っていても決して飽きることはありません。